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第8章 社員はAIで賢くなるのか、バカになるのか

生成AIを仕事で使うと、かなり便利です。

文章を考えてくれる。 要約してくれる。 アイデアを出してくれる。 調べものを手伝ってくれる。 プログラムも書いてくれる。

すると、自然に次の疑問が出てきます。

「こんなにAIに頼って、人は大丈夫なのか」

便利になった結果、 人間の能力が落ちるのではないか。

自分で考えなくなるのではないか。

これは、かなり大事な問題です。

しかも、単純に

「AIを使うとバカになる」

とも、

「AIを使えば賢くなる」

とも言えません。

使い方によって、どちらにもなり得ます。

この章では、 生成AIと人間の能力の関係を、 会社の立場から考えてみます。


1 便利な道具は、いつも人間の能力を変えてきた

この問題は、生成AIだけの話ではありません。

電卓が普及したときも、

「暗算ができなくなる」

と言われました。

カーナビが普及したときも、

「道を覚えなくなる」

と言われました。

検索エンジンが普及したときも、

「知識を覚えなくなる」

と言われました。

実際、その通りになった部分はあります。

昔より、 電話番号を覚えている人は減りました。

道を地図なしで覚える機会も減りました。

簡単な計算を、 すぐ電卓に頼る人も増えました。

では、人間は全体としてバカになったのでしょうか。

そう単純でもありません。

覚えなくてよくなったぶん、 別のことに頭を使えるようになった。

とも言えます。

重要なのは、

「何を機械に任せて、 何を人間が残すのか」

です。


2 認知的オフローディングという考え方

人間は、 頭の仕事を外部に逃がします。

これを、 認知的オフローディングと呼びます。

難しい言葉ですが、 やっていることは日常的です。

メモを書く。 カレンダーに予定を入れる。 電卓を使う。 検索する。 ナビを見る。

全部、

「頭の中だけでやらない」

工夫です。

生成AIは、 この認知的オフローディングを かなり強力にします。

例えば、

文章を考える。 論点を整理する。 比較する。 要約する。 反論を考える。

これまで頭の中でやっていた作業を、 AIに外出しできます。

これは便利です。

しかし、

外に出しすぎると、 自分でやらなくなる

という問題が出てきます。


3 考える前にAIを使うと、考えなくなる

例えば、

「新商品のアイデアを考えてください」

と最初からAIに聞く。

すると、 10個、20個と案が出ます。

便利です。

でも、

自分では一つも考えていない。

ということがあります。

これを繰り返すと、

「最初の一案を自分で作る力」

が弱くなる可能性があります。

一方で、

自分で3案考える ↓ AIに20案出させる ↓ 比較する

なら、 少し違います。

自分の考えを持ったうえで、 AIを使う。

この順番はかなり重要です。


4 AIは「答えを出す道具」より「考える相手」にする

生成AIを、

答えをもらう機械

として使うと、 人間は受け身になりやすいです。

一方で、

考えを壊す相手

として使うと、 かなり面白くなります。

例えば、

「この案の弱点を挙げて」 「反対意見を出して」 「前提がおかしくないか見て」 「別の見方をして」 「この数字から別の結論は出せるか」

と聞く。

こうすると、 AIは人間の思考を代替するというより、

思考を刺激する道具

になります。

この使い方なら、 AIで賢くなる可能性があります。


5 「自分で考えてからAI」はかなり強い

私は、

予測してからAIを見る

という使い方がよいと思っています。

例えば、

この売上データから何が言えそうか。

まず自分で考える。

そのあとAIに分析させる。

自分の予想と、 AIの答えを比べる。

これだけで、 学習効果はかなり変わります。

いきなりAIの答えを見ると、

「ああ、そうなのか」

で終わります。

先に予測すると、

「自分はここを見落としていた」 「AIはここを間違えている」 「考え方が違う」

と比較できます。

仕事でも同じです。

AIを使う前に、 少しだけ自分で考える。

これは単純ですが、 かなり大事です。


6 新人ほど危ない可能性がある

生成AIは、 新人にとって非常に便利です。

メールを書ける。 資料を作れる。 コードを書ける。 説明文を作れる。

つまり、 ベテランっぽい成果物を 早く作れます。

これはよいことです。

しかし、

なぜそう書くのか。 なぜその数字を見るのか。 なぜその手順にするのか。

を学ばないまま、 成果物だけ作れてしまう。

ここが少し怖いです。

経験を積む途中で必要だった

迷う。 失敗する。 調べる。 直す。

という過程を飛ばす可能性があります。


7 ベテランはAIを使いやすい

逆に、 ベテランはAIをかなりうまく使えます。

なぜなら、

AIの間違いに気づける

からです。

生成AIが作った文章を見て、

「この表現はまずい」 「この前提は違う」 「この数字は怪しい」

と判断できます。

つまり、

専門知識がある人ほど、 AIの出力を評価できる。

これは重要です。

AIが専門家を不要にする

というより、

専門家の生産性を上げる

場合が多いです。


8 新人とベテランでAIの使い方を変える

ここから、 会社として少し工夫できます。

新人には、

AIの答えをそのまま使わせない。

例えば、

最初に自分の案を書く。 AIに案を出させる。 違いを説明する。

という手順にする。

ベテランには、

AIを使って仕事を速くする。

これでよい。

つまり、 社員全員に同じAIルールを当てる必要はありません。

能力や経験に応じて、 使い方を変えてよいのです。


9 AIで文章がうまくなっても、考えが深くなるとは限らない

生成AIを使うと、 文章はかなりきれいになります。

敬語も整う。 論理もそれらしくなる。 見出しも付く。

でも、

文章がうまい

ことと、

中身がよい

ことは別です。

ここは注意が必要です。

内容が薄くても、 AIがきれいに整えると、 それらしく見えます。

これは会社でも問題です。

見た目のよい資料が増える。

でも、 意思決定に必要な中身は薄い。

そんなことが起きます。

AI時代ほど、

「きれいに書いてあるから正しい」

と思わないほうがよいです。


10 AIは自信を増やすこともある

生成AIに相談すると、

自分の考えを肯定してくれる

ことがあります。

これは気持ちがよいです。

しかし、

自信が増える

ことと、

正しい

ことは別です。

例えば、

自分の企画案をAIに見せる。

AIが、

「非常に有望なアイデアです」

と返す。

嬉しい。

でも、 市場で売れるかどうかは別です。

AIは、 人を励ますのが上手です。

だからこそ、

「反対意見を出して」

と意識的に頼む必要があります。


11 AIに反論させる

会社でAIを使うなら、

反論役

として使うのはかなりおすすめです。

例えば会議前に、

「この企画に反対する役員の立場で批判してください」

と頼む。

あるいは、

「この事業が失敗するとしたら、理由を10個挙げて」

と頼む。

すると、 自分たちが見落としていた点が出るかもしれません。

AIを使って、 自分の考えを補強する

だけではなく、

自分の考えを攻撃する

のです。

この使い方は、 人間の判断をむしろ強くします。


12 「答えを見る前に予測する」を社内ルールにしてもよい

少し変わった社内ルールですが、

重要な判断では、 AIを見る前に自分の考えを書く。

という方法もあります。

例えば、

この顧客は契約更新すると思うか。 この企画の問題点は何か。 このデータから何が言えるか。

まず自分で書く。

そのあとAIを見る。

これなら、 AIの影響を受ける前の自分の判断が残ります。

あとで比較できます。

これは教育だけでなく、 意思決定の質を上げる可能性があります。


13 AIに任せた仕事は、できなくなるのか

これは難しい問題です。

毎回AIにメールを書かせる。

すると、 自分でメールを書く能力は落ちるのでしょうか。

たぶん、 ある程度は落ちる可能性があります。

でも、

それで困るのか

は別問題です。

電卓を使うことで、 筆算が遅くなった。

でも、 多くの仕事では困りません。

つまり、

失ってもよい能力

もあります。

問題は、

失うと困る能力

までAIに任せることです。


14 会社として「残す能力」を決める

AI時代には、

社員に何をできるままでいてほしいか

を考えたほうがよいかもしれません。

例えば、

顧客と話す力。 数字の意味を読む力。 問題を発見する力。 判断する力。 説明する力。

こうした能力は残したい。

一方で、

定型メールを一から書く。 決まった形式の報告書を整える。

これは、 AIに任せてもよいかもしれない。

会社として、

何を機械に任せ、 何を人間に残すか

を考える。

これはかなり大きなテーマです。


15 AIを使わない訓練も必要かもしれない

少し極端ですが、

ときどきAIなしでやる

ことも必要かもしれません。

例えば新人研修で、

最初の一回は自力。 二回目からAI使用可。

にする。

あるいは、

重要な基本スキルだけは、 AIなしでもできる状態を確認する。

これは、 車の運転に似ています。

普段はカーナビを使う。

でも、 最低限の交通ルールや道路感覚は必要です。

AIも同じかもしれません。


16 AIで学習速度が上がる可能性もある

ここまで心配な話をしました。

でも、 生成AIは教育にもかなり使えます。

わからないことを、 その場で聞ける。

何度聞いても怒られない。

別の説明を頼める。

例を出してもらえる。

練習問題を作ってもらえる。

これは強いです。

特に、

質問するのが苦手な社員

にとっては便利です。

上司に聞くのは気が引ける。

AIなら聞ける。

この効果は大きいかもしれません。


17 AIは「いつでもいる家庭教師」に近い

社員教育で考えると、 生成AIはかなり特殊です。

24時間いる。 何度でも説明する。 個別に教える。 相手のレベルに合わせる。

人間の教育担当者では難しいことです。

例えば、

「このExcel関数がわからない」 「この会計用語を簡単に説明して」 「このメールのどこがまずいか教えて」

とその場で聞ける。

これをうまく使えば、 社員の学習速度は上がります。

つまり、

AIで人がバカになる

だけではありません。

AIで人が早く学ぶ

可能性もあります。


18 会社でのAI教育は「プロンプト研修」だけでは足りない

AI研修というと、

良いプロンプトの書き方

を教えることが多いです。

もちろん役に立ちます。

しかし、 もっと大事なのは、

AIの答えをどう評価するか

です。

正しいか。 根拠はあるか。 前提は合っているか。 抜けている点はないか。

こちらの能力です。

AIへの質問力より、 AIへの評価力。

今後はこちらのほうが重要になるかもしれません。


19 社員の能力差は縮まるのか、広がるのか

生成AIが普及すると、

能力差が縮まる

という見方があります。

文章が苦手な人でも、 きれいな文章を書ける。

英語が苦手でも、 海外とやり取りできる。

プログラムが書けなくても、 簡単な自動化ができる。

たしかに縮まりそうです。

でも逆に、

AIをうまく使う人

は、さらに速く学びます。

AIを使わない人との差が広がる。

可能性もあります。

つまり、

AIは格差を縮める道具

にも、

格差を広げる道具

にもなり得ます。


20 上手な人ほどAIでさらに強くなる可能性がある

例えば、 文章が得意な人がAIを使う。

AIの文章を見て、 すぐ直せる。

悪い表現も見抜ける。

結果として、 さらに速く、よい文章を作れる。

一方で、 文章が苦手な人は、

AIの出力が良いのか悪いのか判断しにくい。

この場合、

能力差が広がる

ことがあります。

生成AIが平等化するかどうかは、 そんなに単純ではありません。


21 AI時代の新人教育は「正解を教える」から変わる

従来の新人教育では、

正しいやり方を教える

ことが中心でした。

でもAIが正解らしいものをすぐ出せるなら、

教育の役割も変わります。

なぜそうするのか。 どこが危ないのか。 どう確認するのか。 別の方法はないか。

こうした部分が重要になります。

つまり、

答えを覚える

より、

答えを評価する

教育です。


22 AIと一緒に仕事をする能力

これから重要になるのは、

AIを使えるか

ではなく、

AIと仕事を分担できるか

かもしれません。

自分がやる。 AIにやらせる。 AIの出力を見る。 必要なら戻す。 最後は自分で決める。

この流れをうまく回せる人です。

これは、

プロンプトを書く能力

より広い能力です。

仕事の設計能力に近いです。


23 AI依存をどう見つけるか

社員がAIに依存しすぎているかどうか。

簡単にはわかりません。

でも、 少し兆候はあります。

AIの答えを説明できない。 なぜそう判断したか言えない。 AIが使えないと作業が止まる。 間違いに気づけない。

こうなっているなら、 少し危ないです。

AIを使うこと自体が問題なのではありません。

AIなしでは考えられない状態

が問題です。


24 「AIを使ったか」ではなく「理解しているか」

社員教育や評価でも、

AIを使ったかどうか

だけを見るのはよくありません。

AIで作った資料でも、

内容を理解しているならよい。

逆に、 AIを使わず自分で作ったとしても、

内容を理解していないなら意味がない。

見るべきなのは、

本人が説明できるか

です。

これはかなり単純な確認方法です。

「なぜこの結論になったのですか」

と聞く。

答えられれば、 ある程度理解しています。


25 AIが人を賢くする条件

ここまでを整理すると、

AIで人が賢くなる条件

は、たぶんこうです。

自分で少し考えてから使う。 AIに反論させる。 答えの根拠を見る。 間違いを探す。 比較する。 わからないところを質問する。

つまり、

受け身で使わない

ことです。

AIを、

代わりに考える機械

ではなく、

一緒に考える機械

として使う。

この差は大きいです。


26 AIが人をバカにする条件

逆に、

考える前にAIへ聞く。 答えをそのまま使う。 確認しない。 説明できない。 何でもAIに任せる。

この使い方を続ければ、 能力が落ちる可能性があります。

特に、

新人。 学生。 未経験者。

では注意が必要です。

最初に覚えるべきことまで、 全部AIに任せると、

基礎ができない

かもしれません。


27 経営者自身も例外ではない

これは社員だけの問題ではありません。

経営者も同じです。

AIに、

経営戦略を考えて。 投資判断をして。 採用基準を作って。

と頼めます。

便利です。

でも、 最後までAIの答えに乗っていると、

自分で考える時間

が減ります。

経営者にとって、 これは少し危険です。

AIは相談相手としては優秀です。

でも、

経営責任まで引き受けてくれるわけではありません。

最後に決めるのは人間です。


28 もしかすると、これから価値が上がるのは「考える力」かもしれない

ここから少し、まだよくわからない話です。

AIが文章を書ける。

翻訳できる。

調査できる。

分析できる。

そうなると、

これまで「知的労働」と呼ばれていた作業の一部は、 かなり安くなるかもしれません。

すると逆に、

何を問うか。 何を疑うか。 何を選ぶか。 何を決めるか。

の価値が上がる可能性があります。

答えを作る能力より、

問題を見つける能力。

こちらのほうが重要になるかもしれません。


29 「AIで楽をする」ことは悪いことではない

最後に、 少し誤解しやすい点があります。

AIを使って楽をする。

これは悪いことではありません。

人間は、 ずっと道具を使って楽をしてきました。

問題は、

楽をした結果、 何をするか

です。

単に考えなくなる。

なら問題です。

浮いた時間で、

顧客と話す。 勉強する。 新しいことを考える。 休む。

なら、 かなり良い使い方です。

楽をすることが悪いのではありません。

楽になったぶんを、 どう使うかです。


まとめ AIは人を賢くも、バカにもする

生成AIを使えば、 人は必ず賢くなる。

そうは言えません。

必ずバカになる。

それも違います。

使い方次第です。

考える前に答えをもらう。

これは危ない。

自分で考え、 AIと比較し、 反論させ、 修正する。

これはかなり強い。

会社として重要なのは、

AI利用を禁止すること

でも、

何でもAIに任せること

でもありません。

人間に残したい能力を決めることです。

そして、

AIで代替してよい仕事 AIと一緒にやる仕事 人間が最後まで持つ仕事

を分ける。

AI時代の社員教育は、 たぶんここから始まります。

次の章では、 その話をもう少し組織側へ広げます。

AIが仕事を手伝うようになったとき、

管理職は何をするのでしょうか。