Skip to content

第2章 まず会社で使うなら、ここから

生成AIを会社で使ってみたい。

そう思ったとき、最初にやりがちなのが「導入計画」を作ることです。

全社で使うのか。 どのサービスを採用するのか。 利用ルールはどうするのか。 社員教育はどうするのか。 情報漏えい対策はどうするのか。 費用はいくらかかるのか。

どれも大事な話です。

しかし、最初から全部決めようとすると、たいてい話が大きくなりすぎます。

会議をする。 資料を作る。 ベンダーを呼ぶ。 比較表を作る。 利用規程を作る。

そして数か月たっても、まだ誰もAIを仕事で使っていません。

これは少しもったいないです。

生成AIは、従来の基幹システムのように、最初に大きな設計をしてから導入するものとは少し違います。

まず一人が使ってみる。 次に小さな仕事で試す。 使えそうなら周囲に広げる。 問題があればやめる。

この順番のほうがよいでしょう。

生成AIは、かなり「試してから考える」技術なのです。

1 最初から全社導入しない

会社で新しいシステムを導入するときには、どうしても「全社導入」という発想になりやすいです。

会計システム。 勤怠管理。 販売管理。 グループウェア。

こうしたシステムは、全社で統一したほうが都合がよいです。

しかし、生成AIは少し違います。

最初の段階では、

「全社員が同じように使う」

必要はありません。

むしろ、使いたい人から使ったほうがよいでしょう。

例えば営業部に、生成AIに興味のある社員が一人いたとします。

その人が、

営業メールの下書き 提案書の構成案 顧客からの問い合わせ整理 業界情報の要約

に使ってみます。

それで毎週2時間でも3時間でも仕事が減るなら、その時点で価値があります。

一方で、使ってみたがほとんど役に立たないなら、そこでやめればよいのです。

会社全体で大きな意思決定をする前に、小さく答えが出ます。

これはかなり大きな利点です。

2 最初に選ぶなら「失敗しても困らない仕事」

最初にAIを使う仕事は、何でもよいわけではありません。

おすすめは、

「失敗しても大きな問題にならない仕事」

です。

例えば、

社内メールの下書き 会議の議題案 資料の要約 文章の言い換え アイデア出し 社内向け説明資料のたたき台

などです。

逆に、最初から、

契約判断 採用判断 顧客への正式回答 法務判断 重要な価格決定

などに使うのはおすすめしません。

生成AIは間違えるからです。

最初の目的は、

「会社の重要業務をAIに置き換える」

ことではありません。

「AIがどの程度使えるのか、自分たちで感覚をつかむ」

ことです。

だから、間違っても取り返しがつく仕事から始めます。

これは、AI導入というより実験に近いです。

3 経営者自身が使ってみる

私は、中小企業で生成AIを使うなら、経営者自身が一度は使ってみたほうがよいと思っています。

理由は単純です。

自分で使わないと、社員が何をしているのかわからないからです。

「AIで効率化しろ」

と言うだけでは、社員にとっては困ります。

何に使えばよいのか。 どこまで任せてよいのか。 失敗したらどうするのか。

このあたりがわかりません。

一方、経営者自身が、

「私は会議の前に論点整理に使っている」 「メールの下書きには便利だった」 「数字は間違えることがあるので確認している」

と話せれば、社内での使い方がかなり具体的になります。

経営者がAIの専門家になる必要はありません。

むしろ、

「何が便利で、何が怖いか」

を体験しておくことが重要です。

生成AIは、説明を100回聞くより、一度自分の仕事で使ったほうがわかりやすいです。

4 「一番面倒な仕事」を一つ持ってくる

会社でAIを使うとき、最初から「AIで何ができるか」を考えると難しくなります。

それより、

「毎週やっていて面倒な仕事は何か」

を考えるほうがよいでしょう。

例えば、

毎週同じ形式の報告書を書く。 会議の議事録を作る。 問い合わせメールを分類する。 同じような説明文を何度も書く。 大量の資料から必要な箇所を探す。

こうした仕事は候補になります。

AIありきで仕事を探すのではなく、

困っている仕事 ↓ AIで手伝えるか試す

という順番で考えます。

これは意外に大事です。

「AIを導入すること」が目的になると、無理にAIを使おうとしてしまいます。

本来の目的は、仕事を楽にすること、速くすること、間違いを減らすことです。

AIを使わないほうが早いなら、それでよいのです。

5 最初の成功は「10分減った」でいい

AI導入の話になると、すぐに大きな数字を求めたくなります。

生産性30%向上。 人件費20%削減。 年間1000万円削減。

もちろん、最終的にはそういう効果が出ればよいでしょう。

しかし、最初の実験では、もっと小さくて構いません。

10分かかっていた仕事が5分になった。 30分かかっていた資料整理が10分になった。 メールを書く心理的な負担が減った。

これで十分です。

大事なのは、

「この仕事ではAIが使える」

という具体的な事例が一つできることです。

一つ成功例ができると、周囲が真似しやすくなります。

営業部で使えた。 総務でも試してみよう。 経理ではどうでしょう。

こうして広がっていきます。

最初から大きなROIを証明しようとするより、小さな成功例を増やすほうが現実的です。

6 誰に最初に使わせるか

全員に使わせる必要はありません。

最初に使う人は、

新しいものが好きな人 試行錯誤を嫌がらない人 多少失敗しても怒らない人 他人に使い方を説明できる人

がよいでしょう。

逆に、

「会社が言うなら仕方なく使います」

という人を最初に選ぶと、あまりうまくいきません。

生成AIは、まだ使い方が完全に固まっていません。

だから最初の利用者には、少し遊ぶ感覚が必要です。

どんな質問をするとよいか。 どういう仕事では使えないか。 どんな間違いをするか。

そういうことを発見してもらいます。

社内の「AI担当者」を最初から任命する必要もありません。

むしろ、使っているうちに自然に詳しくなった人が出てきます。

その人が、社内で最初の相談役になればよいでしょう。

7 無料版で試してもよいのか

最初の実験では、無料版を使うこともあるでしょう。

個人が自分の一般的な文章を整理する程度なら、それでもよい場合があります。

ただし、会社で本格的に使うなら、

どのプランを使うか 入力したデータがどう扱われるか 管理者が利用状況を管理できるか

は確認したほうがよいでしょう。

生成AIサービスには、

個人向け チーム向け 企業向け

など、複数のプランがあります。

価格だけで選ぶのではなく、

会社として管理できるか 利用規約はどうなっているか データが学習に使われるか アクセス権をどう管理するか

を見る必要があります。

ここは少し面倒です。

しかもサービスの内容は頻繁に変わります。

したがって、

「一度ルールを作れば10年間そのまま」

という考え方はやめたほうがよいでしょう。

半年に一度くらい見直すつもりでいたほうがよいでしょう。

8 最初の社内ルールは短くてよい

生成AIを使うにはルールが必要です。

しかし、最初から20ページの利用規程を作る必要はありません。

むしろ、誰も読まなくなります。

最初は例えば、

  1. 顧客の個人情報を入力しない
  2. 社外秘の情報を入力しない
  3. AIの出力をそのまま外部に出さない
  4. 数字や事実は確認する
  5. 判断の責任は人間が持つ

くらいでもよいでしょう。

まずは「これだけはやらない」という最低限の線を決めます。

そのうえで、実際に使って問題が見つかったら追加します。

ルールもまた、小さく始めればよいのです。

これは情報セキュリティを軽視するという意味ではありません。

むしろ、最初から守れないほど複雑なルールを作るより、守れるルールを作るほうが安全です。

9 機密情報はどこまで入れてよいのか

経営者が一番心配するのは、この点かもしれません。

「会社の情報をAIに入れて大丈夫なのか」

答えは、

「サービスと契約による」

です。

少し面倒な答えですが、これが正しいです。

同じ生成AIサービスでも、個人向けプランと企業向けプランでデータの扱いが違うことがあります。

会社として使う場合には、

入力したデータが保存されるのか 学習に利用されるのか 保存期間はどうなっているか 管理者が制御できるのか データの保管場所はどこか

などを確認する必要があります。

ただし、最初の実験では、そもそも機密情報を使わなければよいのです。

架空のデータ。 公開情報。 匿名化した文章。

こうしたものから試します。

いきなり一番危ないところから始める必要はありません。

10 AIの答えを誰が確認するのか

生成AIを仕事で使うと、新しい仕事が一つ増えます。

「AIの出力を確認する仕事」

です。

これを忘れてはいけません。

例えばAIにメールを書かせたとします。

文章はきれいです。 敬語も自然です。

しかし、日付を間違えている。

商品名を間違えている。

相手の会社名を間違えている。

こういうことは普通にあり得ます。

だから、

AIが作る ↓ 人間が確認する ↓ 外部に出す

という流れを基本にしたほうがよいでしょう。

そして重要なのは、

確認する人が、その内容を判断できるか

です。

専門知識がない人がAIの専門回答を確認しても、間違いを見つけられません。

AIを使えば専門家が不要になる、と単純には言えない理由の一つです。

むしろ専門家は、

「ゼロから全部作る人」

から、

「AIが作ったものを素早く評価する人」

に変わるかもしれません。

11 部署単位で試す

個人で使えることがわかったら、次は部署単位で試してみます。

例えば営業部なら、

提案書 顧客メール 営業日報 商談メモ 市場調査

など、似た仕事を複数の人がしています。

ここで、

「この仕事では、こういう使い方をすると便利だった」

というテンプレートを共有します。

例えば、

顧客メモを入力 ↓ 重要事項を整理 ↓ 次回の確認事項を出す

という使い方がうまくいったなら、部署内で共通化します。

一人の工夫が、部署全体の工夫になります。

生成AIで会社の生産性を上げるなら、ここが重要です。

個人が便利に使っているだけでは、会社全体の能力にはなりにくいです。

個人の使い方を、少しずつ組織の知識にする必要があります。

12 「プロンプト集」だけ作ってもあまり意味がない

生成AIを導入すると、

「社内プロンプト集を作ろう」

という話がよく出ます。

悪くはありません。

しかし、私はプロンプトだけを大量に集めても、あまり意味がないと思っています。

例えば、

「以下の文章を要約してください」

というプロンプトを保存しても、それほど価値はありません。

それより、

どの仕事で使ったか どんな入力をしたか どんな出力が出たか どこを人間が直したか 何分短縮できたか

を残すほうがよいでしょう。

つまり、保存すべきなのは「魔法の言葉」ではなく、

「仕事のやり方」

です。

生成AIは進歩が速いので、今日のうまいプロンプトが来年も重要とは限りません。

しかし、

「この仕事はAIと人間でこう分担すると速い」

という知識は残ります。

13 効果は時間で測る

最初のAI利用では、効果を難しく測らなくても構いません。

一番簡単なのは時間です。

以前30分。 AIを使うと15分。

これなら誰でもわかります。

あるいは、

以前は週3回しかできなかった。 AIを使うと毎日できる。

でもよいでしょう。

品質についても、

修正回数 ミスの数 顧客からの反応

などを見ればよいでしょう。

AIの効果を「なんとなく便利」で終わらせず、

どの仕事で どれくらい 何が変わったか

を簡単に記録します。

これだけで、次にどこへ広げるか判断しやすくなります。

14 使わない仕事を決める

AI導入というと、

「どこに使うか」

ばかり考えます。

しかし、

「どこには使わないか」

を決めることも大切です。

例えば、

最終的な採用判断 社員の懲戒判断 重要顧客への謝罪文の最終判断 法的な結論 安全に関わる判断

などは、人間が中心になるべきでしょう。

AIが補助することはできます。

論点を整理する。 文章案を出す。 過去資料を探す。

しかし、最後の判断は人がします。

この線を会社ごとに決めます。

実は、これがAI導入のかなり重要な仕事かもしれません。

「AIに何をさせるか」だけでなく、

「何を人間に残すか」

を考える必要があるからです。

15 社員が使わない場合

会社がAIを導入しても、社員が使わないことは普通にあります。

理由はいろいろあります。

面倒。 よくわからない。 今のやり方で困っていない。 使って失敗したら怒られそう。 仕事を取られそうで怖い。

ここで、

「今後は全員AIを使うこと」

と命令しても、たいていうまくいきません。

それより、

「この仕事、今まで30分かかっていたけど、5分で終わったよ」

という実例を見せるほうが早いです。

人は、新技術そのものには興味がなくても、

自分の面倒な仕事が減る

となれば興味を持ちます。

生成AIを社内に広げるときには、技術の説明より、

「これで何が楽になるか」

を見せるほうがよいでしょう。

16 詳しい人を一人作る

社員全員が生成AIに詳しくなる必要はありません。

しかし、社内に一人か二人、

「困ったら聞ける人」

がいると便利です。

専任である必要はありません。

総務の人でもよいでしょう。 営業の人でもよいでしょう。 若手社員でもよいでしょう。

実際に使っていて、

このサービスならこうする この情報は入れないほうがよい こう質問すると便利

と答えられる人がいます。

この人たちは、最初から任命するより、使っているうちに自然に出てくることが多いです。

面白がって使う人は、放っておいてもいろいろ試します。

そういう人を見つけて、少し時間を与えます。

新技術の導入では、意外にこれが効きます。

17 いきなり専用AIを作らなくてもよい

「会社でAIを使う」

という話になると、

自社専用AI 社内チャットボット AIシステム

を作りたくなります。

もちろん、必要になることもあります。

しかし、最初からそこへ行く必要はありません。

まず一般的な生成AIサービスを使って、

どんな仕事で価値が出るか

を確認したほうがよいでしょう。

価値がわからない段階で専用システムを作ると、

立派なシステムはできたが、誰も使わない

ということが起きます。

最初に仕事を見つけます。 そのあとで、必要なら仕組みを作ります。

順番を逆にしないほうがよいでしょう。

18 小さく始めることは、慎重すぎることではない

「小さく始める」というと、消極的に聞こえることがあります。

しかし、生成AIでは逆だと思います。

小さく始めるから、早く試せます。

大きな計画を作るのに半年かけるより、

今日試す。

明日結果を見る。

来週別の方法を試す。

そのほうが速いです。

生成AIは数か月でサービス内容が変わることもあります。

半年かけて完璧な計画を作ったころには、前提が変わっている可能性すらあります。

だから、

小さく 早く 何度も試す

というやり方が向いています。

これは、いわゆるリーンスタートアップの考え方にも近いです。

完成した仕組みを最初に作るのではなく、仮説を小さく検証します。

会社のAI利用も、同じように考えればよいでしょう。

19 最初の3か月はこんな感じでよい

もし私が中小企業で最初の3か月を設計するとしたら、かなり簡単にします。

最初の1か月。

経営者と興味のある社員数人が使ってみる。

機密情報は入れない。

メール、要約、議事録、アイデア出しなどから始める。

2か月目。

「便利だった仕事」を3つくらい選ぶ。

使い方を簡単に共有する。

何分くらい短縮できたか測る。

3か月目。

別の部署でも試す。

利用ルールを必要に応じて修正する。

有料プランや企業向け契約が必要か検討する。

これくらいでよいでしょう。

この時点で、

全然使えなかった

という結論になっても、それは失敗ではありません。

大きな費用をかける前にわかったのだから、むしろ成功です。

20 AIを入れることより、仕事を見直すこと

生成AIを使い始めると、不思議なことが起きます。

「そもそも、この仕事は必要なのか」

という疑問が出てきます。

毎週作っている報告書をAIで30分から5分にできた。

便利です。

でも、考えてみると誰もその報告書を読んでいません。

それなら、AI化するより報告書そのものをやめたほうがよいでしょう。

生成AIは、既存業務を速くする道具です。

しかし、同時に、

既存業務がおかしいことを発見する道具

にもなります。

AIにやらせてみることで、

なぜこの仕事をしているのか 誰のために作っているのか この手順は本当に必要なのか

が見えてきます。

これは、単なる時間短縮より大きな効果かもしれません。

まとめ まず一人、一つの仕事から

会社で生成AIを使うとき、最初から大きく考えなくて構いません。

全社導入。 AI戦略。 専用システム。 大規模研修。

これらは必要になってから考えればよいのです。

最初は、

一人。 一つの仕事。 一週間。

くらいで十分です。

面倒な仕事を一つ選ぶ。 AIにやらせてみる。 人間が確認する。 時間が減ったかを見る。

便利なら続ける。 ダメならやめる。

そして、一つ成功例ができたら、隣の仕事で試す。

この繰り返しでよいでしょう。

生成AIは、まだ完成された技術ではありません。

使い方も、会社ごとに違います。

だから、

「正しい導入方法を誰かに教えてもらう」

より、

「自分たちで小さく試して、自分たちの使い方を見つける」

ほうが重要です。

次の章では、もう少し踏み込んで、

「そもそも、AIに向く仕事と向かない仕事は何が違うのか」

を考えてみます。