第3章 AIに向く仕事、向かない仕事
生成AIを使い始めると、すぐに次の疑問が出てきます。
「どの仕事ならAIに任せられるのか」
これは、かなり大事な問いです。
生成AIは便利ですが、どんな仕事にも同じように向いているわけではありません。
文章を書くのは得意です。 要約も得意です。 分類や言い換えもかなりできます。
一方で、
現場を見て判断する。 責任を負う。 相手との関係を読んで決める。 例外だらけの仕事を確実にこなす。
こうした仕事は、まだ簡単ではありません。
ですから、会社で生成AIを使うときには、
「AIに任せられる仕事を探す」
というより、
「仕事を分解して、AIに向く部分だけを見つける」
と考えるほうがうまくいきます。
この章では、その見分け方を考えてみます。
1 仕事は一つのかたまりではない
例えば「営業」という仕事を考えてみます。
営業は一つの仕事のように見えますが、実際にはいろいろな作業が混ざっています。
顧客を調べる。 メールを書く。 訪問前に情報を整理する。 商談する。 相手の反応を見る。 提案書を作る。 見積もりを作る。 社内に報告する。 次の提案を考える。
この中で、生成AIに向いているものと、向いていないものがあります。
顧客企業の公開情報をまとめる。 メールの下書きを作る。 提案書の構成を考える。 商談メモを整理する。
このあたりはAIに向いています。
一方で、
相手が本当に困っていることを察する。 今回は押すべきか引くべきか判断する。 長年の関係を考えて値引きを決める。 雑談の中から相手の本音を読む。
こうした部分は、かなり人間的です。
つまり、
「営業をAI化できるか」
という問い方が少し大ざっぱなのです。
正しくは、
「営業という仕事の、どの部分ならAIを使えるか」
と考えるべきです。
2 AIに向く仕事の第一条件は「言葉にできること」
生成AIは、言葉で扱える仕事に強いです。
文章を書く。 文章を読む。 文章を短くする。 複数の文章を比較する。 内容を分類する。 考えを整理する。
このような仕事は、かなり得意です。
逆に、
機械の音を聞いて異常を感じる。 客の表情を見て空気を読む。 現物を触って品質を判断する。 工事現場で危険を察知する。
といった仕事は、言葉だけでは扱えません。
もちろん画像や音声を扱えるAIも増えています。
それでも、
「現場そのものを理解する」
ことはまだ簡単ではありません。
なので、最初の判断基準としては、
「その仕事は、入力と出力を文章やデータで表現できるか」
を考えるとわかりやすいです。
文章で説明しやすい仕事は、AI化しやすい。
これはかなり使える目安です。
3 定型的な仕事は向いている
同じような作業を何度も繰り返す仕事も、AIに向いています。
例えば、
問い合わせメールを分類する。 毎週の報告書をまとめる。 同じ形式の文書を作る。 会議記録から決定事項を抜き出す。 定型的な説明文を作る。
こうした仕事には、
「毎回少し違うけれど、だいたい同じ」
という特徴があります。
完全に同じなら、従来の自動化でもできます。
一方で、毎回かなり違うなら、人間が必要になります。
生成AIが得意なのは、その中間です。
少しずつ違う文章を読みながら、 だいたい同じ処理をする。
ここは生成AIの得意分野です。
例えば顧客からの問い合わせを、
納期 料金 故障 契約 その他
に分ける仕事なら、かなり向いています。
問い合わせ文は毎回違います。
しかし、やっていることは分類です。
こういう仕事は、AIに任せやすいです。
4 「正解が一つではない仕事」にも強い
意外ですが、生成AIは「正解が一つではない仕事」にも向いています。
例えば、
広告のコピー案を10個出す。 新商品の名前を20個考える。 会議の論点を整理する。 提案書の構成案を3つ作る。 顧客への説明方法を複数考える。
こうした仕事には、唯一の正解がありません。
むしろ、
「たくさん案を出して、その中から人間が選ぶ」
というやり方が向いています。
生成AIは疲れません。
10個出してもらって気に入らなければ、
「別の方向で20個」
と頼めます。
人間相手だと、少し頼みにくいです。
AIなら遠慮はいりません。
この性質は、アイデア出しだけでなく、意思決定の補助にも使えます。
例えば、
「この案の弱点を5つ挙げて」 「反対派の立場から批判して」 「顧客が嫌がりそうな点を挙げて」
と頼む。
自分の考えを壊してもらう使い方です。
これはかなり便利です。
5 AIに向かないのは「責任が重い仕事」
一方で、AIに向かない仕事もあります。
その一つが、責任の重い最終判断です。
例えば、
採用するかどうか。 解雇するかどうか。 契約するかどうか。 融資するかどうか。 事故の危険があるかどうか。
こうした判断は、AIが補助することはできます。
しかし、最終的な責任までAIに任せることはできません。
AIは理由を説明することもあります。
しかし、
「AIがそう言ったから」
では、事故やトラブルが起きたときに済みません。
最終責任は人間が負います。
これは技術の問題だけではありません。
会社という組織は、誰が判断し、誰が責任を持つかで動いています。
AIが入っても、この構造は簡単にはなくなりません。
むしろAIが便利になるほど、
「どこまでAIに任せ、どこから人間が責任を持つか」
を明確にする必要があります。
6 例外が多すぎる仕事は難しい
もう一つ難しいのが、例外だらけの仕事です。
例えば、
この顧客だけ特別対応。 この商品だけ納期が違う。 この案件だけ昔の約束がある。 この社員には別ルールがある。
こうした仕事は、AIにとってかなり厄介です。
人間は、
「ああ、この会社は昔からこうだから」
と覚えています。
しかし、AIはその背景を知らないかもしれません。
必要な情報をすべて与えれば対応できる場合もあります。
ただし、現実の会社では、こうした例外ルールが文書化されていないことも多いです。
ベテラン社員の頭の中にしかない。
この状態では、AI以前に問題があります。
逆に言えば、
AIを使おうとして仕事を整理すると、 会社の暗黙知が見えてくる。
これは面白いところです。
「AIに任せられない理由」を調べると、 業務そのものの問題が見つかることがあります。
7 現場仕事はどうなのか
生成AIというと、事務仕事ばかりが話題になります。
では、製造業、建設業、物流、介護、飲食などの現場では使えないのでしょうか。
そんなことはありません。
ただし、使い方が少し違います。
例えば製造業なら、
作業手順書を作る。 不良報告をまとめる。 設備故障の記録を整理する。 新人向け説明を作る。 外国人スタッフ向けに翻訳する。
こうした周辺業務には使えます。
現場そのものをAIがやるのではなく、
「現場の周りにある文章仕事」
を減らすわけです。
意外に、現場には文章仕事が多いです。
報告書。 記録。 申し送り。 マニュアル。 安全確認。 教育資料。
ここをAIで軽くできれば、本来の現場仕事に使える時間が増えます。
AIに現場を置き換えさせる必要はありません。
現場の人を、周辺の事務作業から解放するだけでも十分価値があります。
8 高頻度の仕事ほど効果が大きい
AIに向いているかどうかを見るとき、仕事の頻度も重要です。
年に1回しかやらない仕事を30分短縮しても、効果は小さいです。
毎日20回やる仕事を1分短縮すれば、かなり大きいです。
例えば、
1回2分のメール作成を、 AIで1分にする。
1日20通なら20分。
月20営業日なら400分。
約6時間40分です。
一人でこれだけ減る。
10人なら、月に約67時間です。
小さな改善でも、回数が多ければ大きくなります。
ですから、AI化の候補を探すときには、
「一回あたりどれくらい時間がかかるか」
だけでなく、
「年間何回やっているか」
を見るべきです。
小さくて頻繁な仕事。
ここにはかなり大きな余地があります。
9 嫌われている仕事は狙い目です
もう一つ、わかりやすい目安があります。
「社員が嫌がっている仕事」
です。
毎週の報告書。 会議の議事録。 似たメールの繰り返し。 大量の文章チェック。 データの転記。
こうした仕事は、AI化の候補です。
なぜなら、
嫌われている = 人間がやる価値を感じにくい
ことが多いからです。
もちろん、嫌だから不要とは限りません。
しかし、
「必要だけど、誰もやりたくない」
仕事は、自動化の効果が高いです。
時間だけでなく、心理的な負担も減ります。
これは数字には出にくいですが、かなり重要です。
10 判断が必要でも、全部を人間がやる必要はない
「判断が必要な仕事はAIに向かない」
と言うと、少し誤解があります。
判断そのものをAIに任せなくても、
判断の準備
はAIに任せられます。
例えば採用なら、
応募書類を整理する。 面接で確認すべき点を出す。 候補者ごとの差をまとめる。
ここまではAIに手伝わせられます。
しかし、
誰を採用するか
は人間が決める。
契約でも同じです。
AIに、
重要条項を抜き出す。 前回契約との違いを示す。 確認すべき点を並べる。
ところまでは頼めます。
しかし、
契約してよいか
は人間が決める。
この分担はかなり重要です。
AIは「決める人」ではなく、 「決めるための材料を作る人」
と考えると使いやすいです。
11 AIの苦手な仕事は、実は人間の価値が高い仕事かもしれない
ここで少し視点を変えてみます。
AIが苦手な仕事とは何でしょうか。
相手の気持ちを読む。 信頼関係を作る。 現場で違和感を感じる。 曖昧な状況で責任を持って決める。 長期的な関係を考える。
こうした仕事です。
これは言い換えると、
「人間にしかできない価値の高い仕事」
でもあります。
生成AIが普及すると、人間の仕事がなくなると言われます。
一部は本当に減るでしょう。
しかし同時に、
人間に残る仕事が何なのか
も、よりはっきりしてくるかもしれません。
例えば営業なら、
資料を作る時間は減る。
その分、
顧客と話す。 相手の事情を理解する。 信頼関係を作る。
ことに時間を使える。
そうなるなら、AIは人を置き換える道具ではなく、
「人間らしい仕事に時間を戻す道具」
とも言えます。
これは、かなり理想的な使い方です。
12 AI化しやすい仕事のチェックリスト
ここまでの話を、簡単に整理してみます。
次の項目が多い仕事ほど、生成AIに向いています。
- 入力と出力を文章やデータで表現できる
- 同じような作業を何度も繰り返す
- 多少間違っても人間が確認できる
- 正解が一つではない
- たたき台があるだけでも助かる
- 頻度が高い
- 社員が面倒だと感じている
- 仕事の手順を説明できる
逆に、次の項目が多い仕事は慎重に考えたほうがよいです。
- 最終責任が重い
- 現場の状況判断が重要
- 例外が非常に多い
- 必要な情報が文書化されていない
- ミスが重大事故につながる
- 人間関係そのものが価値になっている
- 正解を確認できる人がいない
このチェックだけでも、社内の仕事をかなり分類できます。
13 「仕事をなくす」より「仕事の形を変える」
AI導入というと、
「この仕事はAIに置き換えられるか」
という話になりがちです。
しかし、実際には、
仕事の一部だけAIに渡す
ほうが多いでしょう。
例えば報告書作成なら、
人間が事実を入力する。 AIが文章化する。 人間が確認する。
問い合わせ対応なら、
AIが回答案を作る。 人間が確認して送る。
企画なら、
AIが案を出す。 人間が選ぶ。 AIが整理する。 人間が決める。
つまり、
人間 → AI → 人間
という流れになります。
全部AI。 全部人間。
その二択ではありません。
この中間が、たぶん一番現実的です。
14 AI化の本当の効果は「仕事の再設計」にある
生成AIの話をしていると、
「この仕事をAIで何分短縮できるか」
に目が行きます。
もちろん、それも大事です。
しかし、もっと大きな効果は、
仕事の流れそのものを変えられること
かもしれません。
例えば、今まで、
担当者が資料を作る ↓ 上司が読む ↓ 修正を指示する ↓ 担当者が直す ↓ また上司が読む
という流れだったとします。
AIが途中に入ることで、
担当者がAIと一緒に下書きを作る ↓ AIがチェックする ↓ 上司は重要部分だけ確認する
という形に変わるかもしれない。
すると、単に作業時間が減るだけでなく、
仕事の役割分担
が変わります。
AIを使う意味は、ここにあるのかもしれません。
「今の仕事を少し速くする」
だけではなく、
「今の仕事のやり方を変える」
ところまで行くと、効果は大きくなります。
15 人を減らすためだけに使うと、たぶんうまくいかない
ここは少し強く言っておきたいところです。
AI導入の目的を、
「人件費を減らす」
だけにすると、うまくいかないことがあります。
社員は当然警戒します。
AIを使えば使うほど、自分の仕事がなくなる。
そう思えば、積極的に使い方を考える人は減ります。
一方で、
「面倒な仕事を減らして、もっと重要な仕事に時間を使う」
という目的なら、受け入れられやすいです。
もちろん、結果として必要な人数が減る仕事もあるでしょう。
それは現実としてあります。
しかし、最初から「何人減らせるか」だけを見ると、
現場からアイデアが出なくなる
という問題があります。
生成AIの使い方を一番よく知っているのは、実際にその仕事をしている人です。
その人たちが、
「この仕事ならAIに任せられる」
と考えてくれる環境を作るほうが重要です。
16 AIに向く仕事は、会社によって違う
ここまでいろいろな基準を書きました。
しかし、最後は会社ごとに違います。
同じ「営業」でも、
会社Aでは提案書作成が大変。 会社Bでは顧客調査が大変。 会社Cでは社内報告が大変。
違います。
ですから、
「生成AIのおすすめ活用法100選」
を読んでも、そのまま自社に当てはまるとは限りません。
大事なのは、
自分の会社の仕事を観察すること
です。
どこで時間がかかっているか。 どこで人が嫌がっているか。 どこでミスが起きているか。 どこで文章をたくさん扱っているか。
そこを見る。
AIを探す前に、仕事を見る。
この順番が大事です。
まとめ 仕事をAI向けと人間向けに分けてみる
生成AIに向く仕事には、いくつか共通点があります。
言葉やデータで扱える。 繰り返しが多い。 たたき台があるだけでも助かる。 人間が確認できる。 頻度が高い。
逆に、
責任が重い。 現場判断が必要。 例外が多い。 人間関係そのものが価値になる。
こうした仕事は、AIだけに任せるのは難しいです。
ただし、
「この仕事はAI向き」 「この仕事は人間向き」
と完全に分ける必要もありません。
一つの仕事の中で、
AIに任せる部分 人間が確認する部分 人間が決める部分
を分ければよいのです。
おそらく、これからの会社で重要になるのは、
「AIを使える人」
だけではありません。
「仕事を分解して、AIと人間の役割を組み直せる人」
です。
生成AIは、仕事を奪う機械というより、
仕事の境界線を引き直す機械
なのかもしれません。
次の章では、そのAIを実際に入れたのに、
「なぜか仕事が減らない」
という、少し困った問題を考えてみます。