第1章 生成AIって、結局なにができるのか
「生成AIを会社で使いたいのですが、何ができるのでしょうか」
最近は、こういう質問を受けることが増えました。
少し前なら、「生成AIとは何ですか」という質問でした。ところがChatGPTをはじめとする生成AIが広く知られるようになり、いまでは多くの人が一度くらいは使ったことがあります。質問を入力すると文章が返ってくることも、なんとなく知られています。
それでも、「会社の仕事で何に使えるのか」となると、急によくわからなくなります。
メールを書かせる。 文章を要約させる。 会議の議事録を作らせる。
このくらいなら想像できます。
では、見積書は作れるのか。顧客対応はできるのか。営業資料は作れるのか。会社の規程について質問に答えられるのか。商品の企画はできるのか。経営判断まで任せられるのか。
このへんから、だんだん怪しくなってきます。
生成AIについて難しい説明を始めると、「大規模言語モデル」「Transformer」「ニューラルネットワーク」「パラメータ」といった言葉が登場します。しかし、会社で使う立場からすれば、最初にそこを理解する必要はありません。
自動車を運転するために、内燃機関の熱力学を勉強する必要がないのと同じです。
まず知っておきたいのは、生成AIが「何をするのが得意なのか」です。
1 生成AIは「文章を書く機械」ではない
ChatGPTを初めて使った人は、生成AIを「文章を書いてくれる道具」だと思うことが多いです。
もちろん文章は書けます。
「取引先に納期が3日遅れることを伝える、丁寧なメールを書いてください」
と頼めば、数秒でそれらしい文章が出てきます。
しかし、生成AIの使い方を「文章を書く」に限定すると、その能力の一部しか使っていません。
生成AIの本質を、会社で使う立場からものすごく乱暴に説明するなら、
「言葉で説明できる仕事を、かなり広い範囲で手伝ってくれる道具」
と考えるとわかりやすいです。
文章を書くこともできます。 文章を短くすることもできます。 長い資料から重要なところを探すこともできます。 二つの案を比較することもできます。 表を整理することもできます。 アイデアを考えることもできます。 文章を分類することもできます。 プログラムを書くこともできます。
つまり、入力と出力を言葉やデータとして表現できる仕事なら、とりあえず生成AIにやらせてみる価値があります。
この「とりあえずやらせてみる」という姿勢は、生成AIを使ううえでかなり重要です。
生成AIの用途を最初からすべて理解するのは無理だからです。
2 まずはメールを書かせてみる
会社で最も簡単に試せるのは、やはり文章作成でしょう。
例えば、
「来週予定していた打ち合わせを翌週に延期してもらいたい。相手に失礼にならないメールを書いて」
と頼めばよいでしょう。
あるいは自分で雑に、
「来週無理。再来週にしてほしい。申し訳ない」
と書いて、
「これを取引先向けの丁寧なメールにしてください」
と頼んでも構いません。
ここで重要なのは、生成AIにゼロから文章を書かせる必要はないということです。
むしろ私は、自分の考えを雑に書いてから整えてもらう使い方をよく勧めています。
人間は「何を言うか」を考える。 AIは「どう書くか」を整える。
こう分担すると使いやすいです。
文章のトーンも指定できます。
「少し柔らかく」 「もっと簡潔に」 「社長から社員へのメッセージとして」 「高校生でもわかるように」 「威圧的にならないように」
と頼めばよいでしょう。
以前なら、文章を書くのが得意な社員と苦手な社員では、メール一通を書く時間にもかなり差がありました。
生成AIを使うと、この差が小さくなります。
文章力がなくなる、という意味ではありません。 文章を書くために必要な最低限の能力を、AIが補ってくれるのです。
3 長い文章を読む仕事にも使える
生成AIは書くだけでなく、読む仕事にも強いです。
例えば、30ページの報告書が届いたとします。
忙しい経営者が最初から最後まで読むのは大変です。
そこで、
「この資料の重要なポイントを5つにまとめて」 「経営判断に関係するところだけ抜き出して」 「問題点と提案を分けて整理して」
と頼みます。
これだけでも読む時間をかなり短縮できます。
契約書、社内規程、調査報告書、会議資料、業界レポートなどにも使えます。
ただし、ここで一つ重要な注意があります。
「AIが要約したから、原文を読まなくてもよい」
とは限りません。
生成AIは重要な箇所を落とすこともあります。
したがって、
AIに概要を作らせる ↓ 重要そうな箇所を見つける ↓ そこだけ原文を確認する
という使い方がよいでしょう。
全部読む代わりにAIに任せるのではなく、「読む場所を絞るためにAIを使う」のです。
4 会議もかなり変わる
生成AIの効果がわかりやすい仕事の一つが会議です。
会議そのものより、会議の前後に大量の仕事があります。
資料を作る。 議題を整理する。 議事録を作る。 決まったことをまとめる。 担当者と期限を整理する。 欠席者に説明する。
このあたりは生成AIがかなり得意です。
例えば会議の記録から、
「決定事項だけ抜き出して」 「誰が何をいつまでにするか表にして」 「欠席した人向けに300字でまとめて」
と頼めます。
さらに、
「この会議では何も決まっていないように見える。未決事項を整理して」
といった、少し意地の悪い頼み方もできます。
私は、この使い方はかなり重要になると思っています。
なぜなら、多くの会社では「会議をすること」よりも、「会議で何が決まったのかわからないこと」のほうが問題だからです。
生成AIが議事録をきれいに作ってくれることより、
「結局、何を決めたんですか」
と機械に聞かれるほうが、組織には効くかもしれません。
5 アイデアを考える相手として使う
生成AIは、アイデア出しにも使えます。
「新しい商品を考えて」 とだけ頼むと、たいてい無難な案が大量に出てくる。
正直なところ、それほど面白くないことも多いです。
しかし、条件を付けると使いやすくなります。
例えば、
「地方の製造業で、社員50人。新規採用が難しい。生成AIを使って改善できそうな業務を20個挙げて」
と頼みます。
さらに、
「その中で初期費用が10万円以下のものだけ残して」 「3か月以内に試せるものに絞って」 「失敗しても損失が小さい順に並べて」
と続けます。
こうすると、単なるアイデア発生装置ではなく、考えを整理する相手になります。
人間同士の会議では、最初に誰かが言った案に議論が引っ張られることがあります。
生成AIなら、何度でも違う案を出させられます。
「さっきとは全く違う観点から考えて」 「常識を無視して考えて」 「逆に、絶対にやってはいけない案を10個出して」
という頼み方もできます。
最後の使い方は意外に便利です。
悪い案を考えさせると、自分たちが陥りそうな失敗が見えてきます。
6 調べものにも使える。ただし注意が必要
生成AIは質問すると何でも答えます。
これは便利です。
しかし、ここは生成AIを使ううえで最も注意が必要なところでもあります。
生成AIは、知らないことについても、それらしい答えを作ることがあります。
しかも困ったことに、かなり自信ありげに書きます。
存在しない法律。 存在しない統計。 存在しない論文。 存在しない会社。
こういったものを平気で出すことがあります。
この現象は一般に「ハルシネーション」と呼ばれています。
名前は難しいが、要するに、
「AIがもっともらしい嘘を言うことがある」
ということです。
したがって、生成AIに調べものをさせるときには、
「それ、本当ですか」
と疑う習慣が必要になります。
特に、
法律 税務 医療 契約 金額 会社名 人名 統計 最新情報
などは確認したほうがよいでしょう。
逆に、
「こういう考え方はある?」 「この文章の問題点は?」 「別の可能性を挙げて」
といった、正解が一つではない質問にはかなり使いやすいです。
つまり生成AIは、
「正しい答えを知っている先生」
として使うより、
「ものすごく物知りだが、ときどき平気で間違える相談相手」
として使うほうが安全です。
7 翻訳は、かなり実用的になった
翻訳は生成AIの得意分野の一つです。
英語から日本語。 日本語から英語。
これだけではありません。
相手に合わせて文章を調整することもできます。
「英語にして」 だけではなく、
「海外の取引先向けの自然な英語にして」 「簡単な英語にして」 「少しカジュアルにして」 「相手に強く要求しすぎない表現にして」
と頼めます。
これは従来の機械翻訳との大きな違いです。
単語を別の言語に置き換えるというより、意味や状況を考えながら文章を作り直してくれます。
海外との取引が多くない中小企業ほど、この効果は大きいかもしれません。
以前なら、「英語が得意な社員がいないので海外対応は難しい」と考えていた会社でも、最初の壁はかなり低くなります。
もちろん、最終的な契約文書などは専門家に確認してもらうべきです。
しかし、
「英語だから無理」
という理由で諦める仕事は、確実に減るでしょう。
8 画像も作れる
生成AIは文章だけではありません。
商品イメージ、広告案、Webサイトのイメージ、プレゼン資料の挿絵なども作れます。
ここでも「完成品を作らせる」ことだけが目的ではありません。
例えば新商品のパッケージを検討するとき、
デザイナーに正式発注する前に、
「こんな感じではどうだろう」
という案を10種類作る。
それを見ながら社内で話し合う。
方向性が決まってから専門家に依頼する。
こういう使い方ができます。
これまでなら、頭の中にしかなかったアイデアを「とりあえず見える形」にするコストが高くつきました。
生成AIは、このコストを劇的に下げます。
文章でも同じです。
完成品を作る能力より、
「たたき台を瞬時に作る能力」
のほうが、実務では重要かもしれません。
9 プログラムを書く仕事も変わった
生成AIはプログラムも書けます。
プログラマーではない経営者には関係がないように見えるかもしれません。
しかし、意外にそうでもありません。
例えば、
Excelのデータを整理する。 毎月同じ形式のCSVを変換する。 ファイル名を一括変更する。 大量の文章を分類する。 複数の帳票から必要な項目を拾う。
こうした小さな作業なら、生成AIにプログラムを書かせて自動化できる場合があります。
以前なら、
「プログラムを書くほどでもないから、人間が毎月1時間作業する」
という仕事が大量にありました。
1時間の仕事は小さいです。
しかし、それを毎月10人が行えば、年間ではかなりの時間になります。
こうした「小さすぎてシステム化されなかった仕事」は、生成AIによって自動化の対象になりやすいです。
もちろん、生成AIが作ったプログラムが常に正しいわけではありません。
だから、重要なシステムをいきなりAIだけで作るのは危険です。
一方で、
「このExcel作業、毎月面倒だな」
という程度の仕事なら、一度AIに相談してみる価値はあります。
生成AIによって、これまで「システム開発」と呼ぶほどでもなかった小さな改善が、ずっと安くできるようになる可能性があります。
10 生成AIは「答え」より「たたき台」に強い
ここまでいろいろな用途を挙げましたが、共通する使い方があります。
それは、生成AIに最終回答を求めすぎないことです。
例えば、
完成した営業資料を作ってもらう。
よりも、
営業資料の構成案を3つ作ってもらう。
ほうが使いやすいです。
完成した経営戦略を考えてもらう。
よりも、
考えるべき論点を20個挙げてもらう。
ほうが使いやすいです。
完璧な契約書を作ってもらう。
よりも、
契約書で確認すべき点を整理してもらう。
ほうが安全です。
AIに100点を求めると、間違いが気になります。
しかし、人間がゼロから考える前に30点や50点のたたき台を出してもらうと、非常に便利です。
人間は白紙から考えるのが苦手です。
何もないところから最初の案を作るには時間がかかります。
しかし、目の前に案があれば、
「これは違う」 「ここは使える」 「この部分を変えよう」
と考えやすくなります。
生成AIは、この最初の一歩を猛烈に速くします。
この点は、会社の生産性を考えるうえでかなり重要だと思います。
11 では、何を任せてはいけないのか
ここまで読むと、
「では、何でもAIにやらせればよいのではないか」
と思うかもしれません。
もちろん、そうではありません。
特に注意したいのは、責任を伴う仕事です。
AIが「この契約で問題ありません」と言っても、問題が起きたときにAIが責任を取ってくれるわけではありません。
採用するかどうか。 融資するかどうか。 人事評価をどうするか。 契約を締結するか。 事故の危険があるか。
こうした判断では、人間が最終的に責任を持つ必要があります。
もう一つは、入力してよい情報です。
会社の機密情報、顧客の個人情報、未公開の技術情報などを、何も考えずに外部のAIサービスへ入力するのは危険です。
どのサービスに何を入力してよいのか。
入力したデータがどのように扱われるのか。
会社として最低限のルールを決める必要があります。
ただし、ここで規則を厳しくしすぎると、今度は誰も使わなくなります。
「危ないから禁止」
だけでは、生成AIの効果も得られません。
このあたりのバランスについては、後の章でもう少し詳しく考えます。
12 最初から「AI導入」をしなくていい
生成AIについて話をすると、すぐに「導入」という言葉が出てきます。
AIを全社導入する。 AIシステムを構築する。 AI戦略を作る。
少し話が大きすぎます。
最初は、一人の社員が一つの仕事で使ってみればよいのです。
例えば、
毎週作っている報告書の下書きを作らせる。 会議の議事録を整理させる。 取引先へのメールを直してもらう。 新商品の案を20個出してもらう。 Excel作業を自動化できないか相談してみる。
これで十分です。
10分かかっていた仕事が5分になれば、その仕事では成功です。
1時間かかっていた仕事が20分になれば、かなり大きな効果です。
逆に、AIを使ったせいで確認に時間がかかるなら、その仕事には向いていないか、使い方が悪いのでしょう。
生成AIには、実際にやらせてみないとわからないことが多いです。
だから最初に立派なAI戦略を作るより、
「小さく試す」
ほうがよいでしょう。
そして、うまくいった仕事だけ広げます。
これは生成AIに限らず、新しい技術を導入するときの基本でもあります。
13 生成AIは「何でもできる」のか
ここまで読むと、生成AIはかなり多くの仕事に使えることがわかります。
一方で、
「では、生成AIは結局何でもできるのか」
と聞かれると、答えは難しいです。
かなり何でもできます。
しかし、何でも安心して任せられるわけではありません。
この違いは重要です。
生成AIは、
文章を書ける。 読める。 分類できる。 比較できる。 考える材料を出せる。 画像を作れる。 プログラムを書ける。
そして、その能力はこれからも伸びていくでしょう。
ただし、
正しいかどうかを確認する。 会社として責任を取る。 顧客との関係を考える。 どの仕事をやめるか決める。 会社として何を大切にするか決める。
こうした仕事まで全部機械に任せられるかは、まだよくわかりません。
むしろ生成AIが普及すると、
「AIに何をさせるか」
より、
「人間は何を決めるのか」
のほうが重要になるのかもしれません。
この話は、少し先の章で考えてみます。
まとめ まず一つ、やらせてみる
生成AIの説明を聞くだけでは、使い方はなかなかわかりません。
一番早いのは、自分の仕事を一つ持ってきて、実際にやらせてみることです。
メールを一本書かせる。 資料を一つ要約させる。 会議記録を整理させる。 アイデアを20個出させる。 面倒なExcel作業を相談する。
そして、
「これは使える」 「これはダメだ」
と自分で判断します。
生成AIの使い方について、最初から正解を知っている人はたぶんいません。
技術そのものが変わり続けているからです。
だから、会社で生成AIを使う最初の一歩は、
「AI戦略を作ること」
ではありません。
「今日やっている仕事を一つ、AIにやらせてみること」
で十分だと思います。
次の章では、そこからもう一歩進んで、
「会社で最初にどこから使い始めればよいのか」
を考えてみます。