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第4章 AIを入れたのに、なぜ仕事が減らないのか

生成AIを入れれば、仕事が減る。

多くの人が、なんとなくそう期待します。

メール作成が速くなる。 資料作成が速くなる。 要約が速くなる。 議事録がすぐできる。 調査も楽になる。

だったら当然、仕事の総量も減りそうです。

ところが、実際にはそう単純ではありません。

AIを使い始めたのに、なぜか忙しさが変わらない。 むしろ確認作業が増えた。 資料が増えた。 会議まで増えた。

そんなことが普通に起こります。

これは生成AIが役に立たないからではありません。

むしろ、AIが便利すぎるから起きる問題もあります。

この章では、

「AIを入れたのに、なぜ仕事が減らないのか」

を考えてみます。


1 仕事が速くなると、仕事が増える

まず、かなり単純な理由があります。

人は、速くできるようになると、そのぶん余計にやります。

例えば、以前は営業資料を1本作るのに3時間かかっていたとします。

生成AIを使えば、1時間で作れるようになった。

ここで普通に考えると、2時間浮くはずです。

しかし実際には、

「じゃあ3案作ろう」 「比較表も付けよう」 「顧客別に少し変えよう」 「英語版も作ろう」

となることがあります。

結果として、作業時間はまた3時間に戻る。

ただし、成果物は増えています。

これは悪いことではありません。

しかし、

「AIで時間が減る」

とは限らないということです。

時間が減る代わりに、質や量が増える。

この現象はかなり起きます。


2 資料を作れるから、資料が増える

生成AIは資料作成が得意です。

すると、今まで作らなかった資料まで作るようになります。

以前なら、

「そこまで重要じゃないから、資料は作らなくていい」

と判断していたものまで、

「AIですぐできるなら作っておこう」

となる。

これは、会社の中でかなり危険です。

資料は、作るだけでは終わりません。

誰かが読む。 コメントする。 直す。 保存する。 更新する。

資料が増えると、その周辺作業も増えます。

つまり、

AIで資料作成が安くなる ↓ 資料が増える ↓ 読む仕事が増える ↓ 確認する仕事が増える ↓ また忙しくなる

ということが起きます。

AIは仕事を減らす道具ですが、

「作業の単価を下げることで、作業そのものを増やす」

こともあるのです。


3 確認作業は消えない

生成AIの出力は、基本的に確認が必要です。

文章を書かせる。 要約させる。 表を作らせる。 説明文を作らせる。

どれも便利です。

しかし、

本当に正しいか。 数字を間違えていないか。 相手の名前を間違えていないか。 変な表現になっていないか。

人間が見ないといけません。

この確認作業は、AI導入後に増えることがあります。

以前なら自分でゼロから書いていたので、内容はだいたい頭に入っています。

AIに作らせると、

「何が書かれているか」

を改めて読む必要があります。

つまり、

作る時間は減った。 でも確認する時間が増えた。

ということが起きます。

この差し引きがどれくらいになるかは、仕事によります。


4 AIの出力を信用しすぎても、疑いすぎてもダメ

確認作業には、少し厄介な問題があります。

AIを信用しすぎると、間違いを見逃します。

しかし、AIを疑いすぎると、

「全部自分でやり直す」

ことになります。

そうするとAIを使う意味がなくなる。

ちょうどよい確認のしかたが必要です。

例えば、

事実は確認する。 数字は確認する。 固有名詞は確認する。 重要判断は人がする。

一方で、

文章の言い回し。 構成。 たたき台。 候補案。

こういう部分は、多少任せてもよい。

AIの出力を、

全部信じる 全部疑う

の二択にしないことです。


5 悪い業務をAIで高速化しても意味がない

これはかなり大事なところです。

例えば、毎週誰も読まない報告書を作っている会社があるとします。

これまで1時間かかっていた。

AIを使えば10分になる。

便利です。

でも、そもそもその報告書が要らないなら、

10分でも長い。

0分にすべきです。

悪い仕事を速くしても、よい仕事にはなりません。

これは生成AI導入でよく起こる問題です。

既存の業務をそのまま残したまま、

「AIで効率化しよう」

とすると、無駄な仕事まで温存されます。

本当は、

その仕事は必要か。 その資料は誰が読んでいるか。 その承認は本当に必要か。 その会議は何を決めているか。

まで見直す必要があります。

AI導入は、業務改善とセットで考えたほうがよいです。


6 承認する人が増えると、何も速くならない

AIで資料作成が速くなっても、

承認に3日かかる。

これでは全体は速くなりません。

会社の仕事は、

入力 作成 確認 承認 実行

という流れでできています。

AIが速くするのは、その一部だけです。

例えば、

資料作成 3時間 → 30分

になっても、

上司確認 2日 部長承認 1日 役員確認 2日

なら、全体としてはほとんど変わりません。

これは重要です。

AIの効果を見るときは、

一つの作業時間

ではなく、

仕事が始まってから終わるまでの時間

を見る必要があります。


7 AIで作れるようになると、品質基準が上がる

これもよくあります。

以前なら、

「これくらいでいいか」

で済んでいたものが、

AIを使えば簡単にきれいに作れる。

すると、

もっときれいに。 もっと詳しく。 もっと丁寧に。

という要求が出てきます。

例えば、以前はA4一枚だった報告書が、

AIで簡単に作れるから5ページになる。

グラフも付く。 要約も付く。 比較表も付く。

品質は上がる。

でも、読む側の負担も上がる。

結果として、会社全体の情報量が増えすぎる。

これはかなりあり得ます。

生成AIは、情報を減らす道具にもなりますが、

情報を大量生産する道具にもなります。


8 「作る人」より「読む人」が詰まる

AIで文章や資料を大量に作れるようになると、

次に問題になるのは、

「誰が読むのか」

です。

例えば営業部が毎週10本の提案書を作れるようになった。

では、それを確認する上司は何本読めるのでしょうか。

AIで作成能力だけが増えると、

レビュー側がボトルネックになります。

これは会社全体でも同じです。

情報生成能力が上がる ↓ 文書が増える ↓ 確認作業が増える ↓ 管理職が詰まる

ということが起こります。

AI導入では、

作る側

だけでなく、

受け取る側

も見ないといけません。


9 会議が減るとは限らない

AIで会議の議事録を作れるようになった。

これで会議が減るかというと、そうでもありません。

むしろ、

議事録を作るのが楽になったから会議を増やす。

ということすらあり得ます。

ここは少し笑えない話です。

AI導入の本来の目的が、

「議事録作成を楽にする」

なら成功です。

しかし、

「会社全体の生産性を上げる」

ことが目的なら、

そもそもその会議が必要か

を考えないといけません。

AIは会議を効率化できます。

しかし、不要な会議をなくしてはくれません。

そこは人間の仕事です。


10 ツールが増えると、それ自体が仕事になる

AIサービスはたくさんあります。

文章用。 画像用。 動画用。 議事録用。 検索用。 翻訳用。 プログラム用。

便利そうに見えるものを次々入れると、

今度はツール管理が仕事になります。

どのAIを使うのか。 誰がアカウントを持つのか。 料金はどうするのか。 データはどこに入るのか。 退職者のアカウントはどうするのか。

さらに、

AさんはChatGPT。 BさんはGemini。 CさんはClaude。 Dさんは別のツール。

となると、会社としての知識共有も難しくなります。

AI導入は、

ツールを増やすこと

ではありません。

むしろ、必要なものだけに絞るほうがよいです。


11 AIを使う人と使わない人の二重運用

会社でAIを使い始めると、

使う人 使わない人

が分かれます。

これは自然です。

ただし、その結果、

従来のやり方 AIを使ったやり方

の両方を維持することがあります。

例えば、

一部社員はAIで議事録を作る。 一部社員は手作業。

そのため、テンプレートも二つ。

ルールも二つ。

説明も二つ。

こうなると、効率化どころか運用が複雑になります。

移行期間は仕方ありません。

しかし、ある程度うまくいったら、

「この仕事は今後このやり方にする」

と決める必要があります。


12 教育コストは意外に大きい

生成AIは直感的に使えるように見えます。

質問すれば答えてくれる。

だから、

「教育はいらない」

と思いがちです。

しかし、実際には少し違います。

何を入力してよいか。 どんな出力を信用してよいか。 どう確認するか。 どの仕事に使うか。

ここは学ぶ必要があります。

さらに、AIのサービスは変化が速いです。

昨日までなかった機能が、今日増える。

利用ルールも変わる。

つまり、一度研修して終わりではありません。

この教育コストも考える必要があります。

ただし、ここでも大げさにする必要はありません。

毎月30分、

「今月便利だった使い方を共有する」

くらいでも十分です。


13 シャドーワークが増えることもある

生成AIを使うことで、

正式な仕事として見えにくい作業が増えることがあります。

例えば、

AIにうまく説明する。 出力を何度も修正させる。 結果を確認する。 AI用にデータを整える。

こうした作業です。

一つひとつは小さい。

しかし、積み重なるとそれなりの時間になります。

しかも、

「AIを使っているから速くなっているはず」

と思われているので、見えにくい。

これがシャドーワークになります。

AI導入の効果を測るときは、

AIに入力している時間 確認している時間 修正している時間

も含めて考えたほうがよいです。


14 仕事が減らない最大の理由は、仕事を減らしていないから

少し身もふたもない話です。

AIを入れても仕事が減らない最大の理由は、

仕事を減らす決定をしていないから

です。

AIで1時間浮いた。

では、その1時間分、

何かをやめたでしょうか。

多くの場合、やめていません。

別の仕事を入れる。

会議を増やす。

資料を増やす。

もっと細かく管理する。

結果として忙しさは変わらない。

会社全体で生産性を上げたいなら、

AIで速くする

だけでは足りません。

何をやめるか

を決める必要があります。


15 AI導入と「やめる会議」をセットにする

実務的には、これがかなり効くと思います。

AI活用会議だけでなく、

「何をやめるか会議」

をする。

例えば3か月に一度、

AIで楽になった仕事 もう不要になった資料 廃止できそうな承認 減らせる会議

を見直す。

AI導入の成果として、

「これを自動化しました」

だけでなく、

「これをやめました」

も報告する。

これはかなり大事です。

効率化というと、

同じことを速くやる

ことだと思いがちです。

でも本当に大きな効率化は、

やらないことを決める

ことです。


16 中小企業にはむしろ有利な面がある

ここまで読むと、

AI導入は結構面倒そうだ

と思うかもしれません。

しかし、中小企業には有利なところがあります。

大企業ほど承認階層が多くありません。

経営者が、

「この報告書、もう要らないよね」

と言えば、翌週からなくせることがあります。

大企業ではそう簡単ではありません。

部署間調整。 規程変更。 システム変更。 労使協議。

いろいろ必要になります。

中小企業は、

意思決定が速い。

これはAI時代にはかなり大きな強みです。

新しいツールを入れる速さより、

不要な仕事をやめる速さ

のほうが重要になるかもしれません。


17 生産性は「一人あたりの仕事量」ではない

AI導入後、

一人が以前の2倍の資料を作れるようになった。

これは生産性が2倍になったのでしょうか。

そうとは限りません。

誰も読まない資料が2倍になっただけなら、意味がありません。

生産性を見るときは、

何をどれだけ作ったか

ではなく、

会社にどれだけ価値が生まれたか

を見る必要があります。

売上が増えた。 納期が短くなった。 顧客対応が良くなった。 社員の残業が減った。 ミスが減った。

こうしたものです。

AIで出力物が増えることと、 生産性が上がることは、

同じではありません。


18 AIは「余白」を作るために使う

私は、生成AIの一番よい使い方の一つは、

「余白を作ること」

だと思っています。

メール作成が速くなる。 議事録作成が減る。 定型資料が楽になる。

そこで浮いた時間を、

顧客と話す。 社員と話す。 新しいことを考える。 現場を見る。

ことに使う。

ここまで行けば、AI導入の意味が出ます。

逆に、

浮いた時間にまた資料作成を詰め込む

なら、忙しさは永遠に減りません。


19 AI導入のKPIに「削除」を入れる

少し変わった提案ですが、

AI導入のKPIに、

「削除できた仕事」

を入れてもよいと思います。

例えば、

毎月の定例資料を3本廃止。 会議を月4回から2回へ。 承認ステップを3段階から2段階へ。 報告書の項目を半分に。

こういうものです。

AI導入の成果として、

何を増やしたか

ではなく、

何を減らしたか

を見る。

これは中小企業にはかなり向いていると思います。


20 AIが忙しさを増やす未来もあり得る

ここから少し怪しい話です。

生成AIがもっと進歩すると、

会社の生産能力はかなり上がるかもしれません。

資料。 広告。 商品案。 プログラム。 動画。 翻訳。

どれも大量に作れる。

すると、

「もっと作れるなら、もっと作ろう」

という圧力が強くなる。

結果として、

AIが仕事を減らすのではなく、 AIが仕事の密度を上げる

可能性もあります。

一日8時間でできることが増えれば、 会社はその8時間を全部使おうとする。

これは、少し怖い未来です。

技術が進歩すれば、人間が楽になる。

必ずしもそうではありません。

浮いた時間をどう使うかは、 技術ではなく、組織が決めます。


まとめ AI導入より「仕事を減らす決断」

生成AIを入れれば、個々の作業は速くなります。

しかし、それだけで会社全体の仕事が減るとは限りません。

資料が増える。 確認が増える。 会議が増える。 ツールが増える。 AI用の作業が増える。

そんなことが普通に起きます。

だから重要なのは、

AIを導入すること

ではありません。

AIで楽になった結果、

何をやめるか

です。

仕事を速くする。 仕事を減らす。 仕事そのものをなくす。

この三つは別です。

一番大きな効果があるのは、 三つ目かもしれません。

生成AIは、 仕事を自動化する道具であると同時に、

「この仕事、本当に必要ですか」

と会社に問いかける道具でもあります。

次の章では、生成AIを社内データと組み合わせると何ができるのかを考えてみます。